光文社新書

日本企業はなぜ「強み」を捨てるのか

岩尾俊平
『日本企業はなぜ「強み」を捨てるのか 増補改訂版『日本”式”経営の逆襲』』
光文社
2023年10月30日
20231221 『日本”式”経営の逆襲』を読んでいなかったので、読みました。新書で読みやすかったです。タイトルは、すでに持っている経営技術(強み)を捨てて、弱みを取り入れる笑えない現状を表現されています。個人的には最後の方のイノベーション自体のマネジメントのシミュレーションがおもしろかったです。こういうのやってみたいと思いました。「予言の自己成就」「信念の自己強化」に嵌ると加速度的に価値創出が高まるのは何となくわかります。日本が文脈に深く依存しているのは、良くも悪くも感があります。なんかよくわからないけど、たぶんそういう空気っていう感じで物事が進んでいる。これを抽象化・論理モデル化していくのが私の職業なのでしょう。あと、支配された空気に弱い。そこに事の真偽は関係ないという。。いい意味で、信念が実質をもたらし、その実質がまた信念を強化するという好循環を作りたいです。

残業学

中原淳+パーソナル総合研究所
『残業学 明日からどう働くか、どう働いてもらうのか?』
光文社
2018年12月20日
IMG_1533_2 紙の本は、超久しぶり。偶然にも同じ中原先生の本です。働き方については、常に悩んでいるわけで手に取った次第。超長時間残業する人は、長時間残業をする人より、若干幸福度が高いという研究結果は、かなり病んでるなぁと思いました。「仕事」「時間」の2つの無限を持っている日本の職場から、青天井の残業が発生してしまうというのは、その通りでしょう。ポイントは、無限に仕事をしてしまうことは、その人の意志や勤勉さからではなく、単なる「慣習」であるということです。残業削減施策でマズいのは、残業のブラックボックス化、組織コンディションの悪化、施策の形骸化ということで、組織への信頼低下、改革ゾンビになるというのは、耐性がついてしまうことも含め、よくよく気をつけなければならないですね。

世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?

山口周
世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」
光文社新書
2017年7月20日(電子版)
20181113 過去最多のブックマークなのではないかという1冊。示唆に富んでいました。結構衝撃的だったのが、アカウンタビリティに対する批判です。過度に「合理的な説明可能性(アカウンタビリティ)」を求めすぎると、意思決定のプロセスにおけるリーダーの直感や美意識はほとんど発動されず、結果的に意思決定の品質を毀損する、アカウンタビリティは「無責任の無限連鎖」になるという言説です。アカウンタビリティ信奉者の私には、難しい問題だなという印象でした。さて、本書の概要は、サイエンス重視(論理と理性)に偏った経営は、必ず他者と同じ結論に至り、レッドオーシャンでの戦いになり、延長線上にストレッチした数値目標を設定し、現場のお尻を叩いてひたすら馬車馬のように働かせるというスタイルに至り、行き先が見えないままにただひたすらに死の行軍を求められている状況に陥るということでした。また、経営に関わる人たちの美意識がほとんど問われず、計測可能な指標だけをひたすら伸ばしていく一種のゲームのような状態は、今日の続発するコンプライアンス違反の元凶となっているということでした。結果的に、過去の優れた意思決定の多くは、「感性」や「直感」に基づいてなされていて、美意識(真・善・美)が大事だというオチなのですが、詳しくは読んでみてください。

35歳のチェックリスト

齋藤孝
『35歳のチェックリスト』
光文社
2014年7月11日(電子版)
20140816 気付けば光文社新書が続いていますね。帰省する直前に、iBooksで見つけて購入。MBA上でも読めるのがいいです(Kindle早く対応して)。現在34歳、来年の3月で35歳になります。ここのところ日々に追われて自分を失いかけているので、ちょうど良さそうと手に取りました。本書では35歳での棚卸しを勧めています。本書の受売りですが、私が普段気を付けていることはストレス管理ですね。忙しくなる=ストレスが増えるではないことがポイントです。仕事は、受動的か能動的かでストレスはかなり違います。車酔い、船酔いのように揺れに翻弄されて無駄にエネルギーを使って疲労するより、主体的に仕事することで、忙しくなってもストレスは格段に減ります。私はビジネス体力がないので、とにかくコントロールしないとすぐにダウンしてしまうので。あと、自分のためより誰かのためのほうが、本質的な生き方ができると思います。そして、人はオファーで成長するということ。自分がどんなにやってみたいと思っても、場を与えられないことにはできないのが仕事です。人格が安定している、システム思考ができる、これらは信頼の基準です。齋藤先生の言う通り「ミッション・パッション・ハイテンション」は大事ですね。

税務署の正体

大村大次郎
『税務署の正体』
光文社
2014年2月14日(電子版)
IMG_8533 税務署で働く人たちが読んだら、その通りと思うのか、そんなことはないと激怒するのか、とにかく税務行政をネガティブに表現した本なのは確かです。税務署員の自腹を切るほどの徴税ノルマとそれに伴う重箱の隅をつつくような指導、強きを助け弱きをくじくような税務行政が語られています。あわせて、筆記試験で幹部候補になってしまう公務員制度に対する批判(民間では入社時の筆記試験で将来が保証されるなんて確かにありえません)、国税OB税理士制度への批判が綴られています。国税に限らずですが、昭和の日本の悪習(コネや恫喝がまかり通る組織)は、この情報化社会で少なくなってきたとはいうものの、閉鎖的であったり旧世代の力が強かったりする組織では、まだまだ残っています。泣いている赤ん坊の哺乳瓶に差し押さえの赤札を貼ることができないと、この仕事はできないという例え(国が雇っているヤクザ)がありましたが、国税を志す学生がこれを読んだら、どう思うのか…。

教室内カースト

鈴木翔
『教室内カースト』
光文社
2013年3月1日(電子版)
20140621 読書本を持ち歩かなくなって久しくなりますが、すっかり電子書籍しか読むことがなくなってしまいました。誰もが感じる教室内でのあの感覚。上位グループ、中位グループ、下位グループ。そんなスクールカーストにスポットを当てた本です。あとがきと解説を読むまで知らなかったのですが、筆者は大学院生なのですね(84年生!)。修論を加筆修正したものが本書のようです。「自分の意見を押し通す」声の大きな生徒が中心となるのはよくあることですが、教室内で1軍となった場合には、権利も多いが義務も多いというのは、なるほどでした。確かに自分が何か言わなきゃという感じになることはあると思います。あと、社会というのは、どういう構成員であろうと、その場に応じた役割分担というか、位置づけがなされますよね。上(下)が抜けても残った者で、また同様の階層が生まれるという。こんな日常では、おそらく誰もが感じ取っているような目に見えない雰囲気を定義して分析しようとしている本書の試みは大変興味深かったです。

君の働き方に未来はあるか?〜労働法の限界と、これからの雇用社会〜

大内伸哉
『君の働き方に未来はあるか?〜労働法の限界と、これからの雇用社会〜』
光文社新書
2014年2月14日(電子版)
20140428 「『自立』と『連帯』という人間社会の基本的な価値は普遍的」という文章で結んである本書は、労働(雇用)に関する本です。専門業務型裁量労働制で、特に労働時間がどうという職業ではない私ですが、雇用されています。自営や時間で労働を提供している方より、自由が利く形態です。基本的に自由であれば責任が求められ、安定を求めれば従属を強いられるものです。大義なきことをすれば、副作用が出てしまうのはモノの道理。本書では、そんなことがつらつらと書かれてあります。これから雇用社会が変わっていくことは確かでしょう。ITが進めば進むほど、私用と仕事を明確に分けることが難しくなるのは目に見えています。また、研究分野では、データ集めと分析くらいなら人工知能である程度できるかもしれません(?)。これからを生きる若者は、新たなルールのなかで生きていくわけで、親世代の伝統的制度論は役に立たないと思います。おもしろい考え方として、キャリア権というものが紹介されていました。労働者の転職力にマイナスになるのはキャリア権の侵害なのだとか。

「当事者」の時代

佐々木俊尚
『「当事者」の時代』
光文社
2012年3月20日
IMG_6365 新書にして465頁というちょっと文量は多めの1冊。今月厳しいかなと思っていたところ、ちょうど体調を崩して通院がいくらかあったので、その待ち時間で読了。キーワードは“マイノリティ憑依”です。自分都合で弱者や被害者の気持ちを勝手に代弁し、当事者意識が薄いというのが根幹にある問題提起です。本文では“エンターテイメント化された免罪符”が本質とあります。『ノルウェイの森』での緑の「こいつらみんなインチキだって。適当に偉そうな言葉をふりまわしていい気分になって、新入生の女の子を感心させて、…」というセリフは言い得て妙です。日本人における戦争などでの視点として、被害者=加害者という解決の難しい論点もなかなか面白い内容でした。何か発言する際には、当事者意識をもって当たることが大切ですね。

アホ大学のバカ学生

石渡嶺司、山内太地
『アホ大学のバカ学生 グローバル人材と就活迷子のあいだ』
光文社
2012年1月20日
IMG_1675 ご存知の通り、私は現場にいます。品のないタイトルですが、やはり興味津々です。思うところもいっぱいあります。私の基本的なスタンスは、継続は力なり。派手な結果はなくとも、こつこつ続けていくことが肝要だと思っています。教育にせよ、研究にせよ、就活にせよ。「特進クラス」と「幼稚園化」というのは、大学改革の最先端ですが、後者はよく叩かれますね。どの大学も(東大も海外の名門校も)初年次教育には力を入れていますし、面倒見がいいのは当たり前な気がします。多くの大学が教育力なくして明日はないのは避けられない現実。世の中としても社会に人材を還元できない大学は不要でしょう。個人的な感覚ですと、今までが異常だった(週に数日大学に来て、授業やって帰るなんて、どう考えてもおかしいでしょ?)と思います。どうでもいいことですが、国内の大学をすべて訪問されたという著者(山内氏)を昨年学内で一度見かけたことがあります。さて、頑張るしかないですね。

「意識の量」を増やせ!

齋藤孝
『「意識の量」を増やせ!』
光文社
2011年6月20日
IMG_1060 今月も読書量は危機的状況。帰省の新幹線でようやく1冊を読み、更新しています。齋藤先生の本は、相変わらず読みやすくて充実していました。ここ最近、気持ちに余裕がないせいもあり、意識の量が減少しているのは、かなり反省です。考えることを避けている感もあります。意識量を保つためにも、日常的な読書や論文サーベイは欠かしてはならないなと思う次第です。意識量を増やすトレーニングの話で「意識小僧」という考え方は、確かにわかりやすかったです。会議中の私の意識小僧はみんな休んでいるかも(苦笑)齋藤先生の本は、大抵、古典かプロの方などの実例をもとに、よい部分をうまく抽出して解説してくれるので、実践的でいいですよね。

法人税が分かれば、会社のお金のすべてが分かる

奥村佳史
『法人税が分かれば、会社のお金のすべてが分かる』
光文社
2009年11月20日
IMG_2215 読もう読もうと思っていて放置していた1冊。今回は機内で。長距離移動時にはやはり読書です。法人税の本としては、真っ当かつ読みやすい内容です。巷のいかさま節税本を読むのであれば、こちらを読んだ方がいいと思います。ただ、会計本の悪いところですが、やはり少し知識がないと読みづらいかもしれません。普段、簿記や会計の授業では、どうしても形式的な話(「これはこうです」みたいな)ばかりになって、実務的なところまで踏み込めないし、そもそも実務を知らないし、というもどかしさがあるのですが、授業内でのちょっとしたネタの宝庫とも言えそうです。付随費用の損金算入のタイミングなんてのも正直考えも及ばないのは、想像力の欠如ですね。いやはや勉強せねば。

バランスシートで考えれば、世界のしくみが分かる

高橋洋一
『バランスシートで考えれば、世界のしくみが分かる』
光文社
2010年12月20日
IMG_2173 また、新幹線内での1冊。もう新幹線移動のときくらいしか読書をしていないですね…。改札内の本屋で購入しました。内容は、バランスシートを使って、金融絡みの事柄の本質を見ていくというものです。少なからず簿記を知っていないとちょっと難しいんじゃないかと思います。最初のバランスシートについての説明がちょっと不十分な感が否めません。分析は、統計数値に基づいたかなり正確なもので、的を射ているものだと感じました。物事の本質を見るという点については、政治家、学者の認識の甘さを痛烈に批判されています。そういう意味では、かなり痛快な内容でした。こういう指摘ができるようにならなければ。

就活のバカヤロー 企業・大学・学生が演じる茶番劇

石渡嶺司、大沢仁
『就活のバカヤロー 企業・大学・学生が演じる茶番劇』
光文社
2008年11月20日
IMG_1229 前々から存在は知っていましたが、下世話な感があって手を出していなかったのですが、学生の就活支援もありますし、ちょっと読んでみるかと思い購入。本来の目的からどんどん離れていく就職活動、他もやっているのでという形式主義が歪めている根本なのでしょう。これは就活に限らず、社会制度全般に言えることだと思います。悪しき慣習は社会の活気を奪っていきますね。個人的に、面接はいかに自分をさらけ出すか(いい意味で)ですよね。異常なほど取り繕ってもいいことないと思います。本書の内容は、“おわりに”部分に集約されていますね。とにかく就活が気持ち悪いと。

わかったつもり 読解力がつかない本当の原因

西林克彦
『わかったつもり 読解力がつかない本当の原因』
光文社
2005年9月20日
IMG_1095 サラーっと読んで、わかったつもりになるというのは日常茶飯事です。深く読むことをあまりしない自分にとってはかなり自戒的な内容でした。ただ、論文のような超論理的な文章については、わかったつもりで読み進めてはいけませんね。そこは書く方も読むほうもキッチリしていかないと解釈は人によって異なるでは済まされません。昔からあった国語の読解問題に対する答えが一つしかないという違和感について、筆者が述べている見解にはとても共感しました。最後の国語教育に対する提言は、その通りだと思います。世の中には、速読というものがありますが、これはわかったつもりの典型になるのかと少し思いました。何でもかんでも熟読は難しいですし、ポイントをしっかり掴んでいればいいのでケースバイケースですが。

一流たちの修業時代

野地秩嘉
『一流たちの修業時代』
光文社
2010年7月20日
IMG_1007 同日付発行の光文社新書が続きます。修業時代と言うと『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』を連想させますが、よくある敏腕経営者のインタビュー集です。この類の本は、好きでよく読みますが、エリートコースまっしぐらな方がいないのが魅力です。それぞれの方がそれぞれに苦難な道程を経て、今があるというのはとても勇気付けられます。共通点を見出すとすれば、諦めずに続けてきたことである気がします。継続は力なり。日々、芯をもって、事に当たりたいですね。

一億総ガキ社会 「成熟拒否」という病

片田珠美
『一億総ガキ社会 「成熟拒否」という病』
光文社
2010年7月20日
IMG_1007 久々に精神・心理系の本を読みました。面白かったです。「成熟拒否」を象徴する「打たれ弱さ」「他責的傾向」「依存症」という3つの問題を分析されています。端的に言えば、大人になれない人が多くなったとの分析です。「もっとできる」はずのイメージ上の自分と、「これだけでしかない」現実の自分の落差を受け入れられない、万能感の喪失、「断念」を受け入れられない人が増えているということです。「挫折に挫折を繰り返し、親の期待とも折り合いをつけながら、自らの卑小さを自覚していく過程」、「自己愛の傷つきを積み重ね、万能感を喪失していくことによって、初めて等身大の自分と向き合えるようになる」、つまりは、自らの立ち位置を認識する、“身の程を知る”ということができていないと。そのなかで依存症を取り上げ、典型的な例として「アメリカ人は朝、目覚めると興奮剤を飲んで気合を入れて出勤し、悲しみは抗うつ剤、怒りは精神安定剤で鎮め、バイアグラでセックスし、睡眠薬を飲んで寝る。今の精神状態が自然なのか、薬物で作られたものなのか分からなくなっていく」という話が挙げられていました。著者の「人があまり死なず、規範から解放された自由な社会、おカネさえあれば欲しいものが手に入る消費社会の副作用」との分析は同感です。

近頃の若者はなぜダメなのか 携帯世代と「新村社会」

原田曜平
『近頃の若者はなぜダメなのか 携帯世代と「新村社会」』
光文社
2010年1月20日
DSC05608 若ぶるつもりはありませんが、少なからず自らの感覚にかなり近いと思いました。“新村社会”とは、よく言ったもので、確かに一昔前と違って、今の若者はものすごく日本的です。空気がすべてと言っても過言ではありません。しかも、情報通信の発達によって、巨大なネットワークに組み込まれ、コミュニケーション能力も明らかに上がっています。しかし、調べものは検索で済ませ、図書館などでの魅力的な本との出会いを失っているというのは、先日読んだ『偶然ベタな若者たち』そのものです。体験もせず、情報を鵜呑みにして、わかった気になって行動しないといった、本書で言うところの既視感は、かなり危うい気がします。あと、下流化する上流も。それにしても、PCよりも携帯で打つ方が、速いしラクというのは、かなりカルチャーショックでした。

『論語』でまともな親になる 世渡りよりも人の道

長山靖生
『『論語』でまともな親になる 世渡りよりも人の道』
光文社
2009年12月20日
DSC05583 最近、『論語』の本が多い気がします。昨今の強欲資本主義に対して、道徳を大事にしようというアンチテーゼなのでしょうか。自らを省みるのには、最適の教材です。ちょっと長いですけど、戒めにメモしておきます。「君子固より窮す。(大志を抱いて、自分のことよりも天下万民のことを思い、真実のために尽くそうとしているのだから、君子が物質的に困窮するのは、むしろ当然。)」、「子曰はく、古の学者は己の為にし、今の学者は人の為にす。(同じく道理を探求しようとしているとしても、昔の学者は、自分を高めたいという内発的な志でそれをしていたのに対して、今の学者は他人から称賛されたいという気持ちから、行っている。)」、「子曰はく、君子は言に訥にして行ひに敏ならんことを欲す。(立派な人間は、言葉は朴訥であってもよく(むしろ口数は控えめを心掛けるべき)、行動は敏捷であろうと努めるもの)」、「子曰はく、古者言をこれ出ださざるは躬の逮ばざるを恥づればなり。(古人が言葉を軽々しく用いなかったのは、自身の行動がそれに及ばないことを恥じる気持ちが強かったため)」、「子曰はく、其の之を言ふや怍ぢざれば、則ち之を為すや難し。(大言することを恥じる気持ちのない人間は(そもそも、それがいかに難しいかを慎重に検討していないので)実行するのは難しい)」、「子曰はく、君子は其の言を恥ぢて、其の行ひを過ごす。(立派な人間は、口先ばかりになりはしないかと恥じて、大言壮語や美辞麗句を控え、実際の行動のほうが少しでも言葉を上回るように努めるもの)」、「子貢君子を問ふ。子曰はく、先づ其の言を行うて而して後之に従ふ。(子貢が君子とはどんな人かを尋ねた。先生は言った。「まずその言わんとすることを実行して見せてから、後でものを言う人である」と。)」

名ばかり大学生 日本型教育制度の終焉

河本敏浩
『名ばかり大学生 日本型教育制度の終焉』
光文社
2009年12月20日
DSC05562 下世話な本だと思っていたのですが、読んでみると結構“なるほど”でした。「ゆとり教育」とはよく言いますが、東大入試は、30年前から比較すると量も圧倒的に増え、質も圧倒的に上がっていて、ゆとり教育どころではないようです。つまりは、学力低下ではなく学力格差が問題なんだと。中学受験で地方国立大の入試より難易度の高い問題を解くという昨今、昔は浪人1年で逆転できた学力が、今や小学・中学の段階で絶望的な学力格差が広がっているようです。そこには構造的な問題があると思います。勉強=競争であり、競争のないところからは勉強が消え、競争を離脱した瞬間に勉強から離脱するという考え方。受験能力(一定の問題を効率よく解くこと)と偏差値のみにしか意識がいかず、自分で探求する学習なんてそっちのけです。受験能力の高い学生が、大学入学後に凄まじい勢いで勉強をやめていくとか。ちなみに、大学の専門教育の成績は、高校成績や入試成績に相関関係はなく、初年次教育との相関関係が強いそうです(学問は探究心、知的好奇心の賜物ですね)。受験に使わないから、この科目は勉強しないという論理に、違和感をもって高校生活を送った覚えがあります。

戦略の不条理 なぜ合理的な行動は失敗するのか

菊澤研宗
『戦略の不条理 なぜ合理的な行動は失敗するのか』
光文社
2009年10月20日
DSC05447 非常に面白い本でドックイヤー満載でした。お薦めです。“戦略の不条理”とは、特定の世界では極めて適合的で合理的な行動していても、別の世界では全く不適合となり淘汰されてしまう合理的不適合といった不条理な現象のことを指し、本書では、ポパーの言う、物理的世界、心理的世界、知性的世界の三次元的な世界観に基づいて、戦略論が展開されています。3つの世界の多元的損益計算には、自らの行動特性や日頃の人間観察でも非常に納得のいく内容でした。それにしても、『孫子』の完成度はやっぱ高いなぁと思わされます。

最高学府はバカだらけ 全入時代の大学「崖っぷち」事情

石渡嶺司
『最高学府はバカだらけ 全入時代の大学「崖っぷち」事情』
光文社
2007年9月20日
DSC05113 “とりあえず大学”という感覚で大学進学率が高まり、入学者が減少するなかで大学は増え続け、限界にきている大学行政。かなり下世話な本ですが、ついつい手に取ってしまいました。一部の例を一般化する批判合戦は、世の中の常ですが、的を射ていることもあるわけで。面倒見もよく素晴らしい教職員もいらっしゃいますが、やはり全体としては官僚的で腐った部分が目立つ世界です。大学パンフの数字のカラクリは、ホントに酷いと常日頃から感じます。就職率が全国平均を下回っている大学・短大を見たことがないですし…。それにしても、通常の講義やゼミ、学生の相談に自分の研究、学会の準備にカリキュラムやら入試やら各種委員会、休日はオープンキャンパスに高校営業、大学教員も大変なご時世です。

論より詭弁 反論理的思考のすすめ

香西秀信
『論より詭弁 反論理的思考のすすめ』
光文社
2007年2月20日
DSC04979 少々ひねくれていますが、なかなか面白い内容だと思いました。完全な論理的な議論というのは、存在しないのではないかというくらい、日常的な会話や議論のなかでは、相手との人間関係や肩書き、議論のすり替えのような、うまく言い包められているようなもの(信じさせられているようなもの)が少なくないです。詭弁の代表格として「人に訴える議論」について5つの型(「悪罵」型、「事情」型、「偏向」型、「お前も同じ」型、「源泉汚染」型)が紹介されていますが、なかなか興味深いものがあります。相手の議論にではなく、相手そのものに対して関係のない攻撃を仕掛けるなんてのは、メディアの常套手段ですよね。

キラークエスチョン 会話は「何を聞くか」で決まる

山田玲司
『キラークエスチョン 会話は「何を聞くか」で決まる』
光文社
2009年8月20日
DSC04930 人と話すのは元来大の苦手です。聞きたいことがあっても、正直に感じたことでも、いろいろと考えてしまって声を掛けられない、これが日常です。億劫な人間ですから。さて、本書は26のキラークエスチョンが紹介されています。何気ないものばかりですが、唐突過ぎる質問は違和感を覚えます。あと、会話って相手の心理が自然と伝わるものですよね。聞く気がなかったり、テキトーだったりってのは、恐ろしいほどバレるものです。本のなかで「話ができないのは、話ができないと思い込んでいるその「心」に問題があるだけ」とありますが、そうだと思います。自分から壁をつくりがちです。

進化倫理学入門 「利己的」なのが結局、正しい

内藤淳
『進化倫理学入門 「利己的」なのが結局、正しい』
光文社
2009年2月20日
20090730 非常にいい本でした。複雑な社会や多様な価値観を背景に、倫理や道徳がわかりにくくなっている現代社会において、非常にわかりやすく「善/悪」「正しい/正しくない」ということについて解説されています。利他行動が返ってくるという正のスパイラルを意識して行動することの大切さを確信しました。みんなが幸せに暮らせる社会の基本を「利益獲得機会の配分」と主張されていることにも共感。何かと個別事例と原則論を混同した議論が多い世の中で、冷静に(かつ合理的に)物事の善悪を判断できる資質が問われていると思います。気がつけば最近、読みやすさと経費削減のため新書が続いています。

人が壊れてゆく職場 自分を守るために何が必要か

笹山尚人
『人が壊れてゆく職場 自分を守るために何が必要か』
光文社
2008年7月20日
20090710 景気悪化でボーナスも激減な世の中。それはそれで、非正規の環境は輪をかけたように劣悪だと思います。今の日本は、ワーキングプアに見られるように労働云々というより貧困の様相をみせています。改めて、労働組合の重要性について考えさせられます。本書に出てくる首都圏青年ユニオンの存在は知っていましたが、こうして活動をみると頑張っていますね。労働環境という意味では、特に権利主張することもなく、働かしてもらっているという状態の私は、諭吉さんに愚民と言われてしまいそうです。誰もが納得した形での公正な職場というのは、なかなか難しいものです。

世界経済はこう変わる

神谷秀樹、小幡績
『世界経済はこう変わる』
光文社
2009年5月20日
20090615 去年の秋に、同じく光文社新書から出ている小幡さんの『すべての経済はバブルに通じる』を読んで、わかりやすくていい本だなぁと感じていたので、その痛快さを求めて手に取りました。内容は期待通りで、非常に共感する部分が多かったです。「今日の得は僕のもの。明日の損は株主と納税者のもの」と言わんばかりの有限責任会社という名の無責任会社の経営者たちへの批判は、ごもっともです。モラルの低下を招いた昨今の金融経済は、ホントにタチの悪いものだったと思います。地道にコツコツ頑張っている正直者がバカを見る社会、もしくは、真面目にやっているのがバカバカしくなる社会なんて、ロクなものじゃありません。モラルの低下は、大きな社会的損失をもたらすものだとつくづく感じました。対談にあるような良い方向へ世界が向かえばいいのですが、いろいろ問題は山積みですよね。

すべての経済はバブルに通じる

小幡績
『すべての経済はバブルに通じる』
光文社
2008年8月15日
10.25 バブルの本質を論理的に解説した良書です。リスクに変質を起こし、膨張する金融資本主義を支える“証券化”の功罪を考えさせられる内容でした。これまでのバブルとは異なり、構造的な必然性を持って生じるリスクテイクバブル、そしてキャンサーキャピタリズム。合成の誤謬が支配する市場は、やはり常軌を逸してると思います。本書では、2007年2月末の上海発世界同時株安からサブプライムショック、そしてそこから続く世界同時株安スパイラルを2008年3月くらいまで詳細に分析検討されています。今思えば、リーマン破綻以前の暴落はかわいいもんだと思わされます。

座右のニーチェ

齋藤孝
『座右のニーチェ』
光文社
2008年6月20日
10.18 Book Diaryちょうど500冊目。30までに1,000冊読もうと目論んでましたが、ムリっぽいです。さて、齊藤先生の本は久々でした。世間のくだらない文化に染まらず、自分をしっかり持って創造的に生きるヒントがいっぱいでした。ネットや週刊誌における嫉妬心や復讐心を露にすることを恥じない文化は、確かにどーしたものかと思うところです。ニーチェの言う「小さな人間」が多いのは確かです。まあ、人間とはそもそもそういうものだとも言えますが。あと、全く新しいアイデアなりを発表してもなかなか評価を受けず、予定調和のあるある感に満ちたものがウケるというのには、確かに頷けました。才能より意欲のほうが本質的な力という意見も同感です。

ウチのシステムはなぜ使えない

岡嶋裕史
『ウチのシステムはなぜ使えない』
光文社
2008年3月20日
9.11 正直、ヒドイ言われ様だと思いました。真面目にきちんと業務をこなしている方にしてみれば、許し難い内容でしょう。でも、それなりに思い当たる節もあるのは事実だと思います。まあ、その分改善していかなくてはならない問題が、余すことなく書き連ねられている気がしました。システム開発は本当に大変なものです。ましてや運用・保守は、もう…ね。筆者は“あとがき”で「自身がSEもどきだったから」と書かれています。きっと、現場で思うことが沢山あったのでしょう。

非属の才能

山田玲司
『非属の才能』
光文社
2007年12月20日
4.2 まわりの雰囲気に飲み込まれず、ありのままでいる人は好きです。でも、協調できない人は嫌いです。当たり前ですが。本書にも書いてありますが、「変わってる部分」が相手にとって喜びを与えるものかが重要だと思います。そうでなければ、やはりうっとうしいだけです。意味のある変わり者でいたいものです。とはいっても周りに同調して生きてきた典型的な日本人の私には“非属の才能”はないでしょう。精々、他の人がやったことのない曲がりくねった人生を謳歌していきます。

「食い逃げされてもバイトは雇うな」なんて大間違い 禁じられた数字〈下〉

山田真哉
『「食い逃げされてもバイトは雇うな」なんて大間違い 禁じられた数字〈下〉』
光文社新書
2008年2月20日
3.24 基本的に人が騙されやすい言い回し(数字の使い方)に注意しようというのが本書の内容だと思います。相変わらず読みやすいし、よいです。ただ、会計本ではないと思います。本書のなかに、会計は科学、ビジネスは非科学とありますが、会計が科学と言えるのか、会計学者の端くれとして結構疑問なところです。勘定に感情が入っていることも多くあります。日常業務ではなく、論文や基準のもととなる理論上に(!!)。「現象の再現性」や「反証可能性」があるのか甚だ疑問です。本にもありますが、その場その場でのカードの切り方が大事だと思います。計画なんてあってないようなもんです。こだわるとムリ・ムラ・ムダがでるし。本書を上からなり、横からなり見ると色のついた部分があります。そこは「会計士事件簿」になってます。だからなんだ

高学歴ワーキングプア

水月昭道
『高学歴ワーキングプア』
光文社新書
2007年10月20日
3.8 はい、私です。まあ、いろいろと思うところはあります。制度的にマズいとも思います。でも、博士課程修了後にフリーターやニートになってしまうのは、その後に大学教員ということしか考えていないためだとも思います。個人的には、学問は学問で、仕事は仕事だと考えています。研究で得た考え方やフレームワークは、別の分野でも応用可能です。ヘンなこだわりというかステータス感など捨てて、社会に出るべきでは?などと偉そうに思います。本のなかで出てくる「博士号は“足の裏の米粒”だ」という例えに、なんか頷いてしまいました。「取っても食えないが、取らないと気持ちが悪い」

食い逃げされてもバイトは雇うな 禁じられた数字〈上〉

山田真哉
『食い逃げされてもバイトは雇うな 禁じられた数字〈上〉』
光文社新書
2007年4月20日
4.29 山田さんの本は久々です。新書で出してくれるとありがたい。相変わらずのわかりやすさと読みやすさでした。大抵、数字に騙されながら生きているとは思いますが、数字に限らず世の中にあふれる情報はいかさまな内容が多いので、まず自分のフィルターを通して批判的(客観的)にみてから判断する必要があるでしょうね。騙されてはいけません。この本では、数字の基本的な見方が解説されているわけですが、ぼちぼちセンスというか丸呑みにしない意識があれば、きっと変わるんじゃなかろうか。でも、読み終わる寸前でこの本が上下巻のセットモノだと気付た私は、やっぱ注意力不足だね。

99.9%は仮説

竹内薫
『99.9%は仮説』
光文社
2006年2月20日
2.26-1 久々の新書。5月以来の様。日々思い込みで生きている自分のために。副題は“思いこみで判断しないための考え方”。しかし、この本の「思い込み」レベルは日常の当たり前のこと(社会、文化など)について、すべては仮説だという意味。案外、世の中ちゃんとわかっていないこと(なんで飛行機は飛ぶのかとか)もあるし、『マトリックス』のようなバーチャル世界の可能性だってあるとか、そーいうレベルの話。世の中に絶対なんてものはなく、すべては相対的なものだということでした。ポパーの反証可能性とかの科学哲学の話は、なんかは懐かしかったです。そういうのもあったな、と。

切腹

山本博文
『切腹』
光文社
2003年5月20日
3.29 じゃぱにーずHARAKIRIについての本です。計431人の切腹者について、その経緯が書かれてあります。副題は“日本人の責任の取り方”。どんな精神力を持って自分の腹を切るのでしょうか。全く持って有り得ない風習です。しかし、その武士道精神たるや実に天晴れなものです。どんな理不尽な理由であろうとも受け入れるその精神状態というか教育制度は少し恐ろしいものがあります。まさに神風特攻隊が生まれる所以です。集団のために自分を犠牲にするという構造は、日本の企業社会にもありますよね。

経営の大局をつかむ会計

山根節
『経営の大局をつかむ会計』
光文社
2005年3月20日
3.18 光文社新書から『さおだけ屋は〜』に続き、また会計の本が出ました。ビジネスプランやリストラクチャリングを会計からきっちり押さえるための基礎がわかりやすく説明されています。ビジネス・モデルをみるにも会計がいかに有用かがわかっていただけると思います。いや、経営にとって会計がいかに必要不可欠なものかがわかるでしょう(当たり前ですけど)。著者は慶應の山根先生。苗字が一緒です。ちなみに、陽一という名の先生も会計には多くいらっしゃいます。

さおだけ屋はなぜ潰れないのか?

山田真哉
『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』
光文社
2005年2月20日
2.26 ほんと、すっかり売れっ子ですね。書名や副題の「身近な疑問からはじめる会計学」のとおり、日頃から不思議に思ってる身近な話題満載です。いい切り口だと思います。わかり易いですし。山田先生に限らず、文学部出身の方は物事の本質をキッチリ捉えて、しかもそれをわかりやすく表現できる能力があるように感じます。文才っていうんですかね、こういうの。そこら辺の会計本って、本当に面白くないんですよね。あの読み辛さは、初心者に対する嫌がらせに近いと思います。

自由という服従

数土直紀
『自由という服従』
光文社
2005年1月20日
2.25 暇潰しにbook diary(blog以前のも含めて)の本を数えてみたら、313冊でした。目標はとりあえず1,000冊ですね。さて、この本は「自由だからこそ、みんな権力にとらわれていく」ということを各事例に沿ってよく言い当てていると思います。なんか男と女の話が多かったけど。でも、権力にとらわれようともこの辺のとこをうまく渡っていくのは必要ですよね。著者の『社会を〈モデル〉でみる数理社会学への招待』(編著ですけど)は、前々から読みたい本の一つです。

スティグリッツ早稲田大学講義録

藪下史郎、荒木一法編著
『スティグリッツ早稲田大学講義録』
光文社
2004年10月20日
2.6 スティグリッツが早稲田で特別講義をしていたとは知りませんでした。早稲田のCOEは、WIN-CLSの方は結構行くんですけどね。GLOPEは知りませんでした。知ってたら行ったのに。現実の経済問題をわかりやすく率直に指摘し、批判するスティグリッツの姿勢は学者としてあるべき姿だと思います。早稲田での講義は、『世界を不幸にしたグローバリズムの正体』に書かれてあるようなIMF批判が中心です。本の後半は、講義の解説と簡単な経済学の説明といった感じでした。

座右の諭吉

齋藤孝
『座右の諭吉』
光文社
2004年11月20日
1.19 『座右のゲーテ』に引き続き読んでみました。ちょっと小難しい原書を読まなくても内容を掻い摘んでわかりやすく紹介してあるのでこういう本はなかなかよいと思います。もちろん原書をきっちり読んだほうがいいんですけど。齋藤さんではありませんが、福沢の考え方はかなり私なりに似通った部分があるなぁと感じました。人との関わり方なんて特に。しかし、福沢諭吉というのは大した人ではありますが、もう少し欠点というか弱いところも見せて欲しいと感じますね。なんかこれじゃ完璧じゃん。

座右のゲーテ

齋藤孝
『座右のゲーテ』
光文社
2004年5月20日
1.12 いいですよね、ゲーテ。秋に複式簿記をどんなふうに賛美しているのかを知りたくて読み始めましたが、そんなことはどうでもよくなり、その内容にとても惹かれました。結局、ヴィルヘルムとウェルテル全部読みました。ちょうど壁に突き当たっていたので(この本の副題は、“壁に突き当たったとき開く本”)とても励みになったものです。この本に紹介されているものもとてもゲーテらしい内容です。いい復習になりました。『ゲーテとの対話』読まなくては!
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