新潮文庫

花神(下)

司馬遼太郎
『花神(下)』
新潮社
1976年8月30日
20240923 帰省往復で完読。昨日、大村神社と鋳銭司郷土館にも行って、高揚しています。下巻は、西郷との対比が興味深かったです。同時に薩長の違いについても頷けました。「薩摩の大提灯、長州の小提灯」と言われるのもわかります。明治2年に襲われた場所は、佐久間象山の遭難と同じ場所のようですが、それが5年しか違わないということに驚きました。第2次長州征伐(1866年)から戊辰終結(1869年)の3年間における歴史的存在感は一等級です。これだけ短期間に事が進んだのが、彼の合理的な指揮によるものであるからこそ、花神ですね。数学的にものを考えるというのは、非政治的な現実論者として、技術屋だなと感じさせられます。その後敗戦に至るまで彼の設計によるものが運用され続けることも頷けます。45歳で亡くなったということで、今まさにその年齢です。いつも思うことですが、あの頃の志士たちの享年を聞くと、自分は何も成し得ていないと思わざるを得ません。萩にも足を伸ばし、遊覧船の船頭さんが、歴史は1/3はそんなことあったかもしれない、1/3は本当、1/3は嘘と言っていましたが、ざっくりそんなところでしょう。あと、山口の魅力はやはり何もないところなのかなと思いました。革命期の思想家(松蔭)、戦略家(晋作)、技術者(蔵六)という視点から、解説で薦められていたので、次は『世に棲む日日』を読もうかな

花神(中)

司馬遼太郎
『花神(中)』
新潮社
1976年8月30日
20240829 東京往復で完読。おもしろいです。300年以上続いた幕藩体制を変えた市民革命として見ると、幕末の長州は、封建社会で抑えられていた才能が解放され暴れ回るという、身分制度では到底抑えられない人間のダイナミクスみたいなものが見て取れるようで大変興味深かったです(その熱量たるや)。情念としては強烈なほど長州人意識が強いので、読んでいると久々に小学校の頃の歴史好き少年に戻った気がします。中巻では、朝敵になったときの長州を幕府にも朝廷にも属さない独立公国とする高杉の理屈がおもしろかったのと、よくもまあ消滅せずに耐え抜いたもんだと思いました。そこにはやはり超合理主義の村田蔵六が必要だったのだと思います。とはいえ、人間社会は合理的なだけでは物事は進まず、形式がモノを言う場面も多いです。その辺りの不器用さや、周辺のサポートがまた物語を面白くしています。徳川300年の世は、超合理的に不穏分子を徹底的に排除するシステムを構築し、その人生経験から人間関係にも長けた家康という偉人が築いたものだと思いました。いつの時代も新しい事を成すというのは、実のないしきたりを壊すことに他ならないかもしれません。ただその実をとる冷静さは、ときに冷酷なもので、四境戦争での大島口のような采配はなかなかできないなと思います。下巻は読む時間あるかな(はて)

花神(上)

司馬遼太郎
『花神(上)』
新潮社
1976年8月30日
20240814 ようやく手にとった1冊。地元の外れ、長沢池という池の辺りに大村神社があります。この小説の主人公である、村田蔵六こと大村益次郎を祭神とする神社です。地元では吉田松陰や高杉晋作といった志士に人気があります。維新後に長州閥を形成するとともに新しい国家を築いた偉人たちも有名です。そういった歴史的人物と同列にあるはずなのに、ひっそり佇むさまがまた彼のよう。靖国神社の参道に堂々たる銅像がありますが、不思議と地味で目立ちません。司馬遼太郎の小説は、『梟の城』『竜馬がゆく』『燃えよ剣』『坂の上の雲』『翔ぶが如く』といった映画やドラマになったものは観て知っているのですが、読むのは初めてでした。ちなみに『花神』も大河ドラマを観ようとしたことはあるのですが、地味で単調なため、すぐにやめてしいました。さて、前置きが長くなりましたが、思っていたとおり、私にはとても魅力的な人物に映りました。身の処し方や、ナショナリストなところが特に引き込まれました。冷徹で合理的なのに、自分の故郷というものにどうしようもない情念を持っているところに共感したというか、身の処し方については粋を感じるとともに感銘を受けました。地元のことを愛しているけど、好きになれないという下手に絡み合った自分の感情が表現されているようでした。続きはいつ読むのやら。

光抱く友よ

蘯のぶ子
『光抱く友よ』
新潮社
2008年4月1日(電子版)
20170823 小説を読んでみようと、高校のOGでもある蘯のぶ子さんの芥川賞作品をダウンロード。「光抱く友よ」「揺れる髪」「春まだ浅く」の3本が集録されています。舞台が地元なだけあって、描写される風景が実際にどこなのかがはっきりとわかる内容でした。方言も懐かしい。「マイマイ〜」も自叙伝的な小説ですけど、この3本いずれも舞台は、ご本人が高校〜短大時代に生活された場所となっています。小説は普段読まないですし、地元贔屓が確実にあるので、評価に苦しむのですが、主人公たちの心の動きを読み進めるのは、なかなか面白かったです。地元シリーズで次は伊集院静『受け月』でも読んでみようかと思案中。

変身

フランツ・カフカ
『変身』
新潮社
2014年10月31日(電子版)
kafka この間、本を読める状態になかったため、気晴らしにすぐ読める本として「カフカでも読んでみたら。変身とか」という一言で手に取りました。帰省の移動の際に読みました。初カフカです。カフカについて知識がなかったので、全くイメージつかなかったのですが、確かに変身していました。前に、星新一を勧められて読みましたが、それと同じ感じだったというのが素直な感想。また機会があれば、読んでみようと思います。

走れメロス

太宰治
『走れメロス』
新潮社
1967年7月10日
IMG_6355 また太宰に手を出してしまった。そんな感想です。大学が夏休みに入って、本屋に行ける時間が取れたことで、手に取ってしまいました。今回は、初期1編、中期8編ということで、これまでの後期作とはまた違った感じでした。「駆け込み訴え」は特によかったです。「女生徒」は女性が主人公だったせいもあるのか、『斜陽』のかず子を思い出しました。全体として相変わらず、自身の自叙伝的な背景と内容ですね。そして、個人的な印象として中二要素が強いというのも相変わらずでした。余裕のある時に、また読みます。

ノックの音が

星新一
『ノックの音が』
新潮社
1985年9月25日
IMG_6103 「たまには星新一とか読んでみたらどう」という勧めで手に取りました。ショートショートというジャンルでとても読みやすくて、ものの一瞬で完読。気分転換にはいいなと思いました。小説を読まない私も最近は朝夕刊の連載小説を読むようになりましたが、そんな気楽さがあります。「ノックの音がした。」から始まる15編の短編で構成されています。サスペンスなんて全く読んだことがないのですが、おそらく本書のようなものをいうのでしょう。一種、ホラーみたいでしたが。云々かんぬんで、最後に「キャー」みたいな。星新一はSF作家らしいので機会があれば、そっちも読んでみようと思います。SFも読んだことがない。

みずうみ

川端康成
『みずうみ』
新潮社
1960年12月25日
IMG_1337 『文豪はみんな、うつ』を読んで、川端康成が気になって購入。iBooksで購入後も改めて文庫本を購入(やっぱり本は紙が好き)。大昔に読んだ『伊豆の踊子』の記憶は全くないものの、川端文学の理解者たちが、困惑し嫌悪したのも大変頷けるものでした。この偏愛傾向は、本人の体験なくしては表現できないものだと思います。それはさて置き、「意識の流れ」を表現した作品として、とても興味深い内容です。まるで夢の中のように、次から次へと唐突かつ無作為に流れていく主人公の意識の変化がおもしろく、まとまりのない断片の塊が、自然と全体を構成していく感じがなんとも言えません。

斜陽

太宰治
『斜陽』
新潮社
1950年11月20日
IMG_9755 『斜陽』にしました。薄かったので。女性が主人公ということで↓の2作と趣が違うように感じました。相変わらずの厨二感もよかったです。「かず子べったり」や「かず子がっかり」といった戯けたやりとりもよかったです。「ギロチン、ギロチン、シュルシュルシュ」は一度家でやってみようと思います。明るさにのなかにある暗さ、暗さののなかにある明るさ、世間という社会に仮面を被りながら生きる人間の屈折した様や生まれに付き纏うアイデンティティーといった内面に迫る内容は、太宰作品の魅力ですね。また機会があれば読みます。

人間失格

太宰治
『人間失格』
新潮社
1952年10月30日
IMG_9610 少々かぶれているようです。『人間失格』を購入。↓をさらに晒け出した人間の内面に迫る自叙伝的内容は、文学青年を陶酔させ、熱狂させるのも頷けます。解説にもあるように「自分ひとりに話しかけられているような心の秘密を打ち明けられているような気持になり、太宰に特別の親近感をおぼえる。そして太宰治は自分と同じだ、自分だけが太宰の真の理解者だという同志感を持つ。」ちょっと厨二入っているようにも感じ、若くして自死した太宰への当時の熱狂ぶりは、尾崎豊を連想させるようでもありました。とは言え、この純粋さゆえに転落してく様は趣深いもので、大変魅力ある作品でした。次は何を読もう。

ヴィヨンの妻

太宰治
『ヴィヨンの妻』
新潮社
1950年12月20日
IMG_9545 暗鬱な心を扱う文学といえば太宰かな、ということで購入。短編小説8本で薄かったので本書をチョイス。『放哉と山頭火』の廃人っぷりに続く素晴らしきダメ夫の数々で大変面白かったです。ダメな知識人というのに、どうも魅力を感じてしまいます。現実的には全く関わりたくありませんが。個人的には、それぞれの小説の最後の下りが気に入っています。太宰治、気に入りました。かぶれない程度に読んでいこう。

中原中也詩集

吉田熙生編
『中原中也詩集』
新潮社
2000年2月25日
6.2 珍しく文学系の本を手にとってみました。しかも詩集。どーいう心境の変化でしょう。同郷の中原中也です。内容について、あーだこーだいうことは何もないんですけど、韻がふまれた日本語というのはいいものですね。なかには訛りの入ったものもあって、なんか郷愁も沸きつついい感じで読んでいきました。実用書しか読まない私にとっては、とても不思議な感じ。しかし、詩というのは言い得て妙なもので、すごく心に響く文章表現です。私の固い頭ではなかなか理解し難いですけど。同郷の詩人では、金子みすずなんかもいいです。

オトナ語の謎。

糸井重里
『オトナ語の謎。』
新潮社
2005年4月1日
7.16 音楽を聴き始めたからか、寝ることが多くなったからか読書のスピードが落ちてます。この本は、紹介されて読んだんですけど思いのほか面白かったです。役にも立つことでしょう。ここででてくるオトナ語が果たしてオトナ語なのか若者語なのかは結構微妙な感じです(個人的には)。意外に今までも普通に使ってきたような。新人向けの基礎マナー系の講座を受けたりすると使用していいのか迷うところ。まずは正しい日本語から始めて少しずつ崩していくのが良きプロセスでしょう。まずは正しい言葉遣いから。こっちの方が難しい。
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