司馬遼太郎
『世に棲む日日(三)』
文藝春秋
2003年4月10日(新装版)
20241102 内容的に89年の年末時代劇スペシャル「奇兵隊」を思い出しました。個人的には、彦島を譲らなかったこと、四民平等の市民軍を作ったことが、晋作の偉業だと思っています。作中にある政治の喜劇性と悲劇性という表現は、事実は小説よりも奇なりで、実に興味深いです。数年で何回転もする幕末長州は、まさに政治の大舞台で、藩主をおきざりにした政略も戦略も戦術も度外視した暴走の上に、下関戦争があり、さらに2度の長州征伐、そのなかで獄中や追われながらも俗論派を打ち破り、幕軍を退ける回天を遂げた晋作の話は、やはりおもしろいです。現代でもここ数年の衆院選を見ると、鞍替え、暗殺、代替り、定員減、区割変更と政治は何が起こるかわからないと思わされます(山口の話)。それはそうと、「政治的緊張期の日本人集団の自然律」と表現されていた、責任不在にして無理だとわかっていることに空気で突き進む特性は、本当に危ういです。起こるかもしれない未来として、この国に暮らしている限り留意しておくべき事項です。とは言え、思想が命より上位にある生き方、イデオロギーへの殉教性という熱狂には、魅了されるところがあります。松陰のいう「狂」になることも転換期の人材育成としては大事かもしれないと思いました。