近江商人の理念 増補版

小倉榮一郎
『近江商人の理念 増補版 ー近江商人家訓撰集ー』
サンライズ出版
2020年9月20日
20260702 最近は数字を扱うことが多いのですが、やはり歴史だなと思いました。帝都接近説や交通要衝説の否定から始まるところから、テンション上がりました。印象論ではなく、歴史的事実から紐解く、事実は小説より奇なり的な内容が盛りだくさんでした。出資と経営が分けられ、計算上も店は主人と別個に存在する資本体として考えられていたことや、資本の維持や資本を増やすことが重大関心事として帳簿がつけられていたこと、あらゆる取引の金額は他の帳簿に複記されることで、全体の体型を整えていたのはなるほどでした。亀山社中が株式会社形態の始めとされる通説や複式簿記は明治以降に西洋から導入されたという通説を覆す近江商人の先進的な経営は、素晴らしいものです。祖先崇拝が強く、会社をご先祖様と考え、ご先祖様に奉公するものと考えていたことや一方で祖業を守り続けたものはほとんどいないというのも、何が本質かを見極める力があるのだなと思いました。荀子の「先義而後利者者栄」の影響とされる「人として、まずは利益を求めるのではなく、道義をわきまえた行をすれば利益は後からついてくる。そして商売に励みよく富んで、その富に見合った徳、すなわち善行を社会に施せ」や投機取引に手を出すこと、不実取引は商人の器ではないとする思想は、その基礎になっているのだと思います。丁稚奉公(「◯吉どん」から始まる)の話や陰徳の話もあり、『琥珀の夢』を思い出しました。会計倫理研究で触れるようになった近江商人、興味津々です

「嘘をつく」とはどういうことか

池田喬
『「嘘をつく」とはどういうことか 哲学から考える』
筑摩書房
2025年1月10日
20260601 「嘘をつかない」がゼミのスローガンなのですが、「嘘をつかない」とはどういうことなのか(嘘をつくこともあるし)、あまり深く考えたことがないなと思ったので手に取りました。本書は哲学からのアプローチで、誠実とは何か、嘘と騙すの違いとは、といった概念の比較検討がメインで、嘘にもいろいろあるという、理屈を捏ね捏ねする内容でした。相手を傷つけないための嘘や出生に関するようなセンシティブな嘘(血が繋がってないとか)、騙す意図のない嘘としての冗談や皮肉などを例に検討されています。あと、嘘の動機が、自発的なのか強制的なのかによっても状況は全く違うとか。悪の在処としての害説と尊重説は、結果を重んじるか、過程を重んじるかで、よくある話だなと思いました。嘘をつかれたときに、人に侮られた感じがして、嫌な気持ちになることはよくあります。嘘って、金銭や時間の無駄より、結構こっちの方がダメージ大きかったりします。あと、人を信用できなくなるとか。善意の嘘(嬉しくないのに「ありがとう」とか)も難しいです。些細なことでも、一度嘘をついてしまうと、嘘を積み重ねてしまうので、メンタル的によくないというのもその通りです。正直であることは難しい

「叱れば人は育つ」は幻想

村中直人
『「叱れば人は育つ」は幻想』
PHP研究所
2024年7月26日
20260510 示唆に富みすぎて、ドックイヤーだらけになりました。昔から叱ることに意味があるのか疑問に思っていたので、共感しかない内容でした。結論としては、人間には「よくないことをした人を罰したい」という処罰欲求があること、叱られても叱られないためには言われた通りにやるのが一番安全だと思考停止になるだけで、自ら考えることには繋がらないことがわかりました。教育関連の話も多く、日本の教育現場で行われている同調性(対立しない=同質になりなさい)による、いかに浮かないようにするか、表面的に合わせて人間関係の折り合いをつける世界についても触れらていました。一見平和なのですが歪みを感じます。あと本書のいう「冒険モード」の重要性です。私自身、自分の「やりたい」以外で学ぶことはなかったので(ほんと自分勝手)、やらされる勉強ほどつまらなくて頭にも入らないものはないとずっと思っています(やらなかっただけかも)。長くなりそうなので感想はここまで。日本では「叱らないと、叱られる」わけですが(よくある)、叱り続けている人は、ただ気持ちよくなりたいだけなのでした。冒険モードしか勝たん

国立大学教授のお仕事

木村幹
『国立大学教授のお仕事 とある部局長のホンネ』
筑摩書房
2025年4月10日
20260505 国立大学の教授になったので、なんとなく手に取りました。社会人院生→専業非常勤→地方私大→国立高専→地方国立大という遍歴ということもあり、研究者界隈もいろいろというのは、よく理解している方だと思います。本書にある話も、自分の環境とはかなり異なる部分があり、やはり一概には言えないなと思った次第です。世間一般のイメージ(白い巨塔とかガリレオとか)に該当する人なんて、1%に満たないと思います。40代以上がイメージする実際に接していた大学教授も絶滅危惧種だと思われます。裁量労働のなかで、働かせ放題が実際のところではありますが、縛られたくないので、無限残業も気にせず働けるのは自分には合っていると思います。研究をとるか、教育をとるか、学内行政をとるかは人次第です。

新会計原則講話

番場嘉一郎
『新会計原則講話』
中央経済社
1975年4月20日
20260418 最後の改正から40年以上経っていますが、今でも現役の企業会計原則。昭和24年の制定から修正は計4回、最後が昭和57年でした。本書は、3回目の修正である昭和49年の修正について、作業に携わった番場先生による修正に至るプロセスを記されたものです。もとは『旬刊 経理情報』の連載だったようです。普段当たり前だと思っていることが、当たり前でなかった時代の話が書かれてあるので、非常に勉強になりました。当期業績主義時代のP/Lや旧商法時代のB/Sの話は、現在を客観視するよい材料だと思いました。今や会計は、サステナビリティ開示の時代で、財務諸表のあり方を論じる世界から、大きくウィングが広がり、いったいどこまでが会計なのか、何が正しいのかよくわからなくなっています(私だけ?)。あと、本書のような過去のことを論じれる方も少なくなってきたので、こういう本は大事にしたいですね。

畑村式「わかる」技術

畑村洋太郎
『畑村式「わかる」技術』
2005年10月20日
講談社
20260402 失敗学を提唱されている先生です。「わかる」ということがどういうことで、どのような仕組みで「わかる」のかが、わかりやすく説明されています。共感できる部分が多かったです。特に、直観については同感で、過去の膨大な経験が、逐次思考を経ずに飛躍するものなのだと、いつからか実感するようになりました。問題が解ける(暗記で)と、本質を知るが異なることは、言うまでもありません。やらなければならないからやるではなく、結果から原因に思考を巡らす逆演算の思考は、形式化を防ぐ上でも有用な視点だと思います。わかるためのモデルは自分なりに考えて、自力で作り出せるようになるのが肝要です。上位概念を意識して説明することは、わかりやすさからも重要な視点です。本書で、簡単にわかるような技術はないということがわかると思います。

新版 思考の整理学

外山滋比古
『新版 思考の整理学』
2024年2月10日
筑摩書房
20260308 もとは1983年発刊で1986年に文庫化された『思考の整理学』なので、まあまあ古い本ですが、東大・京大で1番読まれた本と言われるように、内容は今でも全く古くないです。言語化はできてないけど、普段なんとなく考えていることが、うまくまとめられていて、ドックイヤーだらけになりました。良本だと思います。発酵や忘却といった、じっくり寝かして考える日常を送ることが創造につながると思います。三上・三中こそがクリエイティブの源泉。三多も大事。他人の言うことに惑わされずに、マイペースにいきたいと思います。

なぜ教員の質が低下しているのか

朝比奈なを
『なぜ教員の質が低下しているのか』
朝日新聞出版
2025年9月30日
20260212 教職に就くゼミ生もいることもあり、手にとってみました。子どもも保護者も教員も学校から遠ざかっているという切り口でした。そして、ブラックな職場環境や教員志望者の減少に触れています。個人的には、終盤の戦前の教育実習記録が興味深かったです。高等師範に科学技術に特化した英才教育クラスがあったのは、初めて知りました。授業そのものに興味を持って児童が活動しているとか、超理想だなと思ったり、疑問を抱いたらそれを教員にぶつける気概をもつ教育実習生とか、今はないだろうなと思ったり、いろいろ新鮮でした。学校の空間に限らず、自分の意見を自由に表明できる雰囲気の醸成って大事ですよね。今の世の中、空気を読み過ぎて、誰も何も声を出さないから、声の大きい誰かが叫んでいるだけで、何が真意なのかわからなくなります。

考察する若者たち

三宅香帆
『考察する若者たち』
PHP研究所
2025年11月28日
20250103 帰りの飛行機で読みました。三宅さんの本は『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』以来の2冊目です。紅白の審査員するくらい売れっ子のようです。こないだ読んだ『Z家族 データが示す「若者と親」の近すぎる関係』の続きの気持ちで読みました。私には理解できない若者に興味津々。萌えと推しの違いに始まり、批評と考察の違いとなかなか興味深かったです。とにかく、「報われたい」という気持ちが強いとのことでした。あと、最適化の恐ろしさと固有性の大事さに触れられていました。確かに選ぶことなく、あなたが欲しいものはこれですとアルゴリズムによってオートで情報が流れてくる現代は、おもしろみに欠けている気がします。固有のものがあると人生楽しいと思うのだが。

大村益次郎(下)維新編

竹本知行
『大村益次郎 近代的学知の受容と実践(下)維新編』
2022年10月1日
一般社団法人 萩ものがたり
20251215 と言いつつも、維新編も世間で語られる内容と史実の違いが興味深かったです。私事を挟まず、天下国家のため、日本国のため、将来のために今何を為すべきかを考え、反対されても凍結されても曲げずに実行に向けて動く姿に素直に感銘を受けました。とはいえ、四境戦争で益次郎によって戦略的に捨てられた大島口の惨状については、何とも言えない気持ちになるのですが、動じない冷静な判断というのは大事だなと思います。恩讐を超えてという部分にあった、会津への配慮などは、木戸や大村が日本という括りで物事に対応している様に、こうありたいと思いました。享年45ということで、未だ何もなし得ていない自分に恥ずかしさを覚えます。自分には何ができるのか。

大村益次郎(上)幕末編

竹本知行
『大村益次郎 近代的学知の受容と実践(上)幕末編』
2022年4月1日
一般社団法人 萩ものがたり
20251211 ということで、村田蔵六です。宇和島へ行った経緯や軍艦雛形の建造、イネとの関係など『花神』で描かれた内容は事実とは異なるという点が、新鮮でした。まあ、歴史小説とリアルは違いますよね。今、大村益次郎編ともなる(下)を読んでいるのですが、軍事関連の話題ばかりなので、(上)の方が面白かったです。実家の近所の話も出てきますし、あれこれ勉強する内容や職を転々とするあたりも共感するし、それがすべて繋がっているのがまた趣き深いです。

吉田松陰 留魂録

松陰神社
『吉田松陰 留魂録』
2016年5月
一般社団法人 萩ものがたり
20251201 去年『世に棲む日日』に嵌っていた頃、萩博物館で購入したものです。55ページの本というより冊子です。ちょっと思うところもあって、吉田松陰の魂に触れて、気持ちを奮い立たせようと思った次第です。第八節の人生を春夏秋冬の四季に例えている部分が印象的でした。まず「未だ曾て西成に臨んで、歳功の終わるを哀しむものを聞かず」に本質的だなと感じ入ったところに、十歳で死ぬ者には十歳なりの四季があり〜とあり、最後に志を受け継いでくれる同志を残せたのであれば、未来に種を残すことができ、実りある豊かな人生だったという内容に触れて、アツいと思った次第です。このあと、大村益次郎も読もうと思っています。人物像の違いが、またアツいんですよね。

Z家族

博報堂生活総合研究所
『Z家族 データが示す「若者と親」の近すぎる関係』
光文社
2025年9月30日
20251125 日々、Z世代と接して、ジェネレーションギャップを感じない日はない日々を過ごしています。そこでこの本です。彼ら彼女が、どんな思考で日々を過ごしているのか、データをもとに明らかにされており、興味を持って手に取りました。印象論ではないところが本書の最大の特徴です。説得力がありました。若者は基本的に変わっていなくて、単にテクノロジーや環境が変わっただけということ、環境意識や社会意識が高いと言うのは、世間での言及が多いだけで、昔の方が高かったとか、内向きなのは親世代の方がその率は高いということは、そうだなと思いました。空気を読み過ぎるとは言うものの、振り返ってみれば、自分たち親世代というか、大人の方がよっぽど空気を読んで過ごして、いろいろなことに億劫だと思います。タイトルにもある通り、家族に焦点をあてており、とにかく家族との関係が密になっているということでした。そして、その割合を食っているのが異性との交流のようです。最後に、家族でなくとも、心理的安全を感じられる大人が一人でもそばにいれば、自尊心やウェルビーイングに好影響をもたらすと書いてありました。

となりの陰謀論

烏谷昌幸
『となりの陰謀論』
講談社
2025年6月20日
20251108 すっかりスマホで読まなくなりました。本はやっぱり現物に限る。巷に溢れる陰謀論について、知識を深めてみようかと思い手に取りました。政治の話が多かったですね。アメリカが真っ二つに分かれているように、パラレルワールド化する世界について、陰謀論は誰もが持っているという視点でいろいろ書かれてありました。いつかトランプがいなくなる日は来るが、不名誉(圧力に屈して不正に手を貸すようなこと)は決して消えることはないというチェイニーの言葉は、重いと思いました。陰謀論を信じるなんて(笑)といった感じで嘲笑する風潮もあるわけですが、陰謀論の主張が間違っている点は厳しく批判しつつも、その背景にある民衆の剥奪感を放置すべきではないという主張には、頷けました。現状を変えることができない虚無主義からくる剥奪感は、深刻です。あと、人間にとって嘘とは何か、真実とは何か、政治とは何かを根本から考え直そうとする著者の歩みとあったアーレントの『全体主義の起原』に興味を持ちました。

ビジネスの倫理学

梅津光弘
『ビジネスの倫理学』
丸善出版
2002年6月30日
20251019 ここのところ会計倫理に関心を持っているので、経営倫理関連のテキストとして読んでみました。倫理学の本は、途中で挫折してしまうのですが、本書はすごく読みやすくて、すごくよい内容でした。会計の根本には、信頼の醸成があると疑わない私は、道徳的責任をどこかに置いてきてしまっているような企業行動に違和感があるし、儲けることが存在目的であったとしても、法律を守れば何をしてもいいわけでもないし、「信なくば立たず」だと思っています。ただ、そんな私も功利主義的なところもあり、物事の良し悪しは結構ドライに割り切りがちで、倫理的にどうなのか、微妙なところもあります。本書では、アリストテレスの徳倫理に共感しました。行為の習慣づけであるエトスが大事だと思います。倫理は論じるものではなく実践するものであると心がけていきたいです。

会計学の地平

友岡賛
『会計学の地平』
泉文堂
2019年12月30日
20251007 大学近くのブックオフにあったので購入しました。三部作の2作目です。本書は後半がよかったです。第6章 意思決定有用性アプローチの功罪、第8章 無形資産会計論の意義、第9章 会計の終焉と会計学社の責任は、興味関心と一致しているのでテンション上がりました。本書の内容に興味を持ってくれるような学生さん大募集です。こだわりどころを捨てることによって失うものと得るもの、こだわり続けることによって保たれるものと得られないもの、当たり前のことなのですが、感慨深いです。意思決定に有用かどうかを反駁できないようように、論理に無縁な意思決定有用性は、きっと理論的にどうこうということに興味がないのだということがわかります。昨今ののれん然りで、政治的に利用されかねない代物だと、改めて思いました。最近は、数字を使った研究ばかりしているので、規範的というか、記述的というか、理屈をこねくり回したような会計学に、一種の郷愁を覚えます。いいよね。

会計学の考え方

友岡賛
『会計学の考え方』
泉文堂
2018年12月30日
20250916 中途半端なことに三部作の1作目に手を出してしまいました。会計学はカネ勘定のための学問であって、収益の増やし方や費用の減らし方は会計(カネ勘定)の問題ではなく経営(カネ儲け)の問題というのは、世間一般の方にわかってほしいです。私どもは経済活動をどう表現するかを考える世界にいます。とはいうものの、「会計学者がやっていると管理会計論で、経営学者がやっていると経営学」といった曖昧なところもありますし、理論の話で言えば、発生主義会計と言っておきながら、未発生のものも多いし、実現主義なんてもはや現金主義に近いじゃないかとか、貨幣性資産と費用性資産という土台のズレた分類による理論的混乱であるとか、テキストに書いてあり、授業でごもっともな感じで説明している内容でも、少し考えると?なところも多いです。将来の予測や見積りまで拡大している認識について、いったい取引とは何かという視点は面白かったです。ゼミではこんなことをじっくり思量したいですね。

会計学の行く末

友岡賛
『会計学の行く末』
泉文堂
2021年7月20日
20250815 友岡先生の本は16年ぶりのようです。最後に読んだ新書以降、11冊も出されています。学術書になりますが、1冊目の『近代会計制度の成立』は院生の頃に読みました。歴史にふれる〜等も学部の頃に読んだようです。テキスト系も本棚にはあります。読むとおもしろいのですが、長らく触れていませんでした。さて、複式簿記論、資本維持論、利益計算論、会計主体論、、と心躍らせる魅力的な目次で、いつも通り会計学徒以外に本書を楽しく読める読者がいるのかという内容です。私でも難解に感じるので、理解しながら読める人は少ないと思います。でも、おもしろいのでぜひ手に取ってもらいたい1冊です。「行動を変える情報が有用」「複式簿記という制約」「比較可能性」については興味深い考察でした。大御所先生の論稿を引用しながら、チクリと刺していく内容は読みものとしておもしろいですし、巷の説を改めて考える機会として貴重な時間となりました。本書は三部作の完結本とのことですが、前の2冊を読んでいません。

経済学者のアタマの中

大竹文雄
『経済学者のアタマの中』
筑摩書房
2025年6月10日
20250717 大竹先生の本はいつぶりでしょうか。面白そうだなと思い、ポチりました。前々職から経済学部に所属していることもあって、経済学部で学ぶこととは的なことを話すことが多いこともあり、参考になりました。確かに、経済学というとおカネの話がメインで、どうやったら効率的に稼げるのか、儲かる投資の話が聞けるみたいな感じに捉えられがちです。特に会計学というと、本気で株価が上がる銘柄を教えてくださいと真顔で言われたりするので、困ります。いつも言うのは、本書のとおりで、世の中をよくするにはどうすればよいのかがテーマで、考えることは限りある資源をどう配分するとうまくいくかなのだと。会計については、世の中の経済活動を円滑にするため、争いを避けるために必須なのが会計だということを伝えたいと常々思っています(これが伝わらないんだ)。本書は、行動経済学の紹介的な要素が強めだと思いますが、経済学や研究活動がどういったものなのかを知るためには、コンパクトで読みやすいと思いました。行動経済学は、非常に有用だと感じます。悪用されがちですが

世界秩序が変わるとき

齋藤ジン
『世界秩序が変わるとき 新自由主義からのゲームチェンジ』
文藝春秋
2024年12月20日
20250622 最近よく目にする齋藤ジンさんです。非常に明快で面白かったです。「失われた30年」とは何だったのか、日本の立場を覇権国家の視点から解説されています。ウクライナ、パレスチナ、イランのような昨今の世界情勢は、明らかにこれまでの常識では考えられないステージにあると言って過言ではないと思います。ただ、本書の視点は、今後の情勢は日本にとってプラスに働くというものです。東アジアの最前線として、力が求められていることによるものですが、諸々の抑止力や有事への備えには覚悟が求められる時代だと思います。個人的に、残念でならないのは、新自由主義の敗北というか、市場に任せておけばいい塩梅になるといった、経済主導によってバカげた戦争を起こすようなこともなくなる、という世界観が明らかに弱まっていることです。新自由主義が好きかと言われると、微妙なところですが、為政者の気持ち次第で情勢が動いてしまうような世界線は恐ろしいです。

楕円の思考と現代会計

石川純治
『楕円の思考と現代会計 会計の世界で何が起きているか』
日本評論社
2020年5月20日
20250528 のれん非償却派の私が通ります。5年近く積読になっていた石川先生の本です。とても楽しく読ませてもらいました。会計好きにはたまらない内容です。併存なりハイブリットな現行会計制度の構造分析や解釈は、20年以上テーマにしているので、合理的で客観的な分析に脱帽です。最近は、規制緩和の名のもとに、合理的な必要性があって設定されている決まり事をなくす動きが後を立ちません(制度疲労を起こしているものは構わないのですが)。一体何のために理論があるのかと憤ることもあります。会計の世界も、理論で説明できない処理が増え続けています。あとがきに、教科書では見えない現代会計とありました。巷のテキストは現行制度第一で、だいたい濁しているので、明確に混在している概念を真正面から整理しようとする意欲的なものはないように思います。授業でも、その辺りは+αで説明していますし、私の中では整理がつかなくなることもしばしば。慧眼とはこういう方のことを言うのだと思います。

経営教育

岩尾俊平
『経営教育 人生を変える経営学の道具立て』
KADOKAWA
2025年3月10日
20250506 新書が続きます。岩尾先生の新刊です。志ある本です。自分だけが良ければいいという価値奪取思考から価値創造思考へというのは、浸透するといいなと思います。奪い合いではなく、創り合い。なぜ、こうも世知辛い世の中になってしまったのでしょう。個人的には、何が善なのかを考えて生きることが大事なのではないかと思っています。「三方よし」で世界は救われるのではないかと結構真剣に考えています。誰から何かを奪うのではなく、価値を生む創造的な仕事は楽しく充実しているものです。本書に「今の時代に本を買って読むということは、精神的余裕とエリートとしての自覚がある方でしょう。」とありました。確かに今時、動画を観ずに本を読む学生は少なそうです。今学生だったら、読めなそう。本書は、「知っているということは、実際にできることだ」を実践することを求めています。普段の学びから知行合一ができているかと言われると自信がないです。

日本型組織のドミノ崩壊はなぜ始まったか

太田肇
『日本型組織のドミノ崩壊はなぜ始まったか』
集英社
2025年3月22日
20250413 続けて集英社新書です。社会生活の中でなんとなくではあるが常にある違和感や、ホントにこのままでいいのかといった危機感をクリアにしてもらえるので、太田先生の本は好んで読んでいます。ジャニーズ、日大、ビッグモーターに宝塚、そして自民党と、枚挙に遑がない日本の組織不祥事ですが、これらの根底にある組織構造の問題を解明していく内容です。マックス・ウェーバーの支配の三類型は初めて知ったのですが、合法的支配と官僚制型、伝統的支配と伝統墨守型、カリスマ支配と絶対君主型という分類はわかりやすく感じました。あと、いつもの基礎集団と目的集団の話が出てきます。会計系の方の論文も紹介されていました。自ら行動しない、何もしない方が得という消極的利己主義が蔓延している日本社会は、本当に危機的だと思います。組織の一員の場合の私自身がそうであり、運営するときにはその空気に困り果てます。日本人は個人としては優秀なのに組織になるとダメだという話がありますが、空気を読んで動かない姿はそれを物語っています。時代も変わったので、新たな組織の形が必要なのだと思いました。

なぜ働いていると本が読めなくなるのか

三宅香帆
『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』
集英社
2024年4月22日
20250327 続けて新書です。新書大賞2025に選ばれた、よく売れている本です。例えに映画『花束みたいな恋をした』の麦と絹が多用されています。社会人になった頃、私も本が読めなくなったと嘆いていました。2006年6月にこのbook diaryが更新できなかったときには、文化的に自分は終わったと思いました。最近はスマホに時間を奪われているなと思うなどしています。本書は、読書と労働の関係を歴史的な観点で紐解いているものです。本を読む時間を確保するためにはどうすればよいか、というものではないです。売れる本や世間の読書観の変遷は、とてもおもろしかったです。世の中っていうのは、いつも流行に沿って動いているものだと再確認したように思います。最終的には、仕事に全力投球のトータル・ワークをやめようという話になります。全身全霊を美談として捉える風潮は、私も危険だと思います。余裕を持つことが大事ですね。

読めば分かるは当たり前?

犬塚美輪
『読めば分かるは当たり前? 読解力の認知心理学』
筑摩書房
2025年1月10日
20250307 久々の新書です。昔から読解力というものに違和感(よくわからない)があったのですが、本書を読んで、やっぱりそうだよね、と安堵しました。普段からよく読み違いをすることが多いのですが、基本的に読んだ時の最も身近な情報から展開してしまう単語の読み間違いや思い込みということを改めて理解しました。そして、会話でも全く違う理解や解釈をすることも多いです(困っている)。あと、読みにくい、どうしても集中できない、入り込めないという状況も、本書の説明に納得しました。総じて、読み物にしろ何にしろ、違和感は大切にした方がいいと思いました。よくわからないことには、何か理由があるものです。情報が多い世の中ですから、文章に騙されないようにこまめにファクトチェックするクセはつけておくべきですね。あと、理解を促進するための相互説明はいいなと思いました。

琥珀の夢 下

伊集院静
『琥珀の夢 小説 鳥井信治郎 下』
集英社
2020年6月25日
20250210 読まないといけないものがいっぱいあるのですが、ついつい。琥珀の夢を読み終えました。最後の解説にある「生きること、生活することにおいて何が肝心なのか、人間形成において何が必要なのかをさまざまな状況で問いかけている」という伊集院静っぽさのある小説です。上巻では特に「陰徳」が印象に残りましたが、下巻での共感は、「そんなもん教わってできるもんやおまへん。やりたかったら勝手に己の甲斐性でやんなはれ」という信治郎の姿勢や「失敗して身につくことの方が多い」との座主の言葉でした。最終的には「やってみなはれ」に集約されそうです。我慢強く続けることは、我慢強く待ち続けることでもあるなと思いました。まだ読み返したい小説はあるのですが、読みたい本もたまってきているので、小説は少しお休みしたいと考えています。

天下 家康伝 下

火坂雅志
『天下 家康伝 下』
日本経済新聞出版社
2015年4月24日
20250117 専門書を読まないといけないのですが、ついつい。天下 家康伝を読み終えました。著者の火坂さんが、この連載終了後に亡くなられていたことを読み終えた後に知りました。『天地人』を書かれた方ということも。家康には、人質時代、三河一向一揆、三方ヶ原、第六天魔王、伊賀越え、太閤秀吉といった、筆舌に尽くしがたい苦労を重ね、壁を乗り越えるたびに人間としての器を大きくしていく様に魅力を感じます(関ヶ原や大阪の陣の頃の重厚感たるや)。こういった経験が、天下泰平の世を築く礎となったことは間違いないでしょう。信長や秀吉のような最期にならなかったことも、用意周到さを最後まで貫徹させた家康ならではだと思います。まさに大器晩成。鳴くまで待とうホトトギスの印象は揺るがないとして、小説や映画、ドラマで描かれる家康像は様々です。歴史は想像ですから、多くの方がそれぞれの想いで描く家康を多く読むことも大事な気がしました。自分の中で一番しっくりくる家康を探してみたい。

黒書院の六兵衛 下

浅田次郎
『黒書院の六兵衛 下』
文藝春秋
2017年1月10日
20250104 年始の移動で完読。300頁と持ち歩きに適していたので六兵衛。年始に寅次郎巡礼で行った小塚原刑場や伝馬町牢屋敷がちょうど出てきて、知識や経験は繋がるもんだなぁと思いました。下巻では益次郎も登場。福地源一郎の江湖新聞のくだりは、よかったです。マスコミには、原点に帰ってもらいたい。前にも書きましたが、今まであまり知らなかった徳川家中の仕組みや御殿の配置に詳しくなった気がします。江戸城跡(皇居東御苑)に行きたくなりました。ここのところ、小説ばかり読んでいるのですが、最後に差し掛かると止まらないです。現実にはあり得ない話でしたが、武士の精神性を六兵衛を通して表現していて面白かったです。わざとではありますが、西郷の薩摩弁は読めませんでした。木戸や大村の長州弁には郷愁を感じました。しばらく大きな移動の予定もないですし、厭離穢土欣求浄土を旗印に天下泰平の世を築いた東照大権現こと家康の続きを読もうかと思っています。

琥珀の夢 上

伊集院静
『琥珀の夢 小説 鳥井信治郎 上』
集英社
2020年6月25日
20241225 六兵衛の続きとも思ったのですが、別のものにしました。こちらは2016年7月1日〜2017年9月5日に日経朝刊に連載されていたものです。ちょうど読み始めた頃に、サントリーHDの次期社長にひ孫の鳥井信宏氏が昇格というニュースがありました。昨年亡くなられた伊集院静氏は、高校の先輩にあたるということや、2014年の「マッサン」で扱われていたこともあって、比較的興味をもって読んでいたものと思います。「陰徳」や「嫉妬」の話が出てくると、伊集院静らしい気がしました。ノブレスオブリージュは大事です。最近、倫理について考えることがあるのですが、モラルってどうやって身につけるのでしょう。鳥井信治郎は、どうやって鳥井信治郎になったのか。偉人の話を読んでいると、そういうところがおもしろいとは思うのですが、教育に結びつけるのは難しい。上巻は奉公を終え、独り立ちしたところで、有金を叩いて1等客船に乗るところまでなのですが、お金の使い方が豪快で、長州の維新志士のようだと思いました。

黒書院の六兵衛 上

浅田次郎
『黒書院の六兵衛 上』
文藝春秋
2017年1月10日
20241209 家康の続きとも思ったのですが、浅田次郎になりました。単行本で購入した家康が出張で持ち歩くには不便という理由です。こちらは2012年5月14日〜2013年4月17日に日経朝刊に連載されていたものです。amazonで検索したとき、吉川晃司で映像化されていてビックリしました。当時は字をなぞっただけだったようで、もはや初めて読んだ気持ちです。江戸時代の旗本、御家人がどんな様子だったのか、これを読むまで特に興味がなかったので、とても興味深かったです。江戸の解像度が上がった気がします。呼び方が、お殿様なのか、旦那様なのか、奥様なのか、御新造様なのか、おひいさまはお姫様のことだったのかとか、勉強になりました。260年続いたしきたりというものの意味を考えさせられました。三河以来の直参旗本みたいな世襲や武士としての体裁から、太平の世を築いた家康の不穏分子は作らないという徹底した制度設計に凄みを感じました。『花神』や『世に棲む日日』と同じ時代とは思えない暮らしぶりでした。大金を手にしたら、遊んで使い果たす長州藩士の自由奔放さときたら

天下 家康伝 上

火坂雅志
『天下 家康伝 上』
日本経済新聞出版社
2015年4月24日
20241124 司馬遼太郎もしくは幕末モノとも思ったのですが、戦国モノになりました。2013年4月1日〜2014年10月11日に日経夕刊に連載されていたもので、当時読んでいたので2回目なのですが、ほとんど覚えていませんでした。連載当時、家康に興味をもったのですが、そのまま放置して、大河ドラマを観て、いつか家康はきちんと読みたいなと思っていました。「どうする家康」とは全く異なる家康観です。歴史は見る視点が異なると、全く様相が変わることが魅力ですね。いや、歴史に限らずか。あと、歴史は経営につながる、みたいなことが言われますが、偉人の話は生きていくうえで参考になりますし、人の愚かなところや素晴らしさは歴史から学べます。いわゆる教養ってやつです。これまで紙上で読んできた連載モノを読み直してみようかとも思っている今日この頃。とりあえず、下巻も読もうと思います。

世に棲む日日(四)

司馬遼太郎
『世に棲む日日(四)』
文藝春秋
2003年4月10日(新装版)
20241107 読書の秋。勢いあまって完読。功山寺挙兵から四境戦争、そして逝去の巻。革命を成し遂げたほどの人物ではあるものの、父母妻子のことになると、どうにも頭が上がらないところに人間味を感じました。また、「きょうは寅次郎の日だ」「追討という文字はいかぬ。鎮静にせい」「総大将はいかぬ、総奉行にせい」という藩主敬親に魅力を感じました。そして、身分社会における、それぞれの役割について考えさせられました。日本において貴族の本質はあくまでも権威の象徴であり、個人的能力ではない。大名はただそこに存在していることだけが大事で、あとのことはすべて家来がやってくれる、ということに始まる組織における煩瑣な秩序習慣というものについて。思想の段階では抗えなかったその世界が、実現の段階で脆くも崩れていく様は歴史のダイナミズムというものでしょうか。『花神』から続いた計7冊の幕末長州ものもこれで終わりです。「いまから長州男子の肝っ玉をお目にかけます」と言ってみたいもんです。次は何を読もう

世に棲む日日(三)

司馬遼太郎
『世に棲む日日(三)』
文藝春秋
2003年4月10日(新装版)
20241102 内容的に89年の年末時代劇スペシャル「奇兵隊」を思い出しました。個人的には、彦島を譲らなかったこと、四民平等の市民軍を作ったことが、晋作の偉業だと思っています。作中にある政治の喜劇性と悲劇性という表現は、事実は小説よりも奇なりで、実に興味深いです。数年で何回転もする幕末長州は、まさに政治の大舞台で、藩主をおきざりにした政略も戦略も戦術も度外視した暴走の上に、下関戦争があり、さらに2度の長州征伐、そのなかで獄中や追われながらも俗論派を打ち破り、幕軍を退ける回天を遂げた晋作の話は、やはりおもしろいです。現代でもここ数年の衆院選を見ると、鞍替え、暗殺、代替り、定員減、区割変更と政治は何が起こるかわからないと思わされます(山口の話)。それはそうと、「政治的緊張期の日本人集団の自然律」と表現されていた、責任不在にして無理だとわかっていることに空気で突き進む特性は、本当に危ういです。起こるかもしれない未来として、この国に暮らしている限り留意しておくべき事項です。とは言え、思想が命より上位にある生き方、イデオロギーへの殉教性という熱狂には、魅了されるところがあります。松陰のいう「狂」になることも転換期の人材育成としては大事かもしれないと思いました。

世に棲む日日(二)

司馬遼太郎
『世に棲む日日(二)』
文藝春秋
2003年3月10日(新装版)
20241021 小樽出張で完読。松陰編から晋作編に移ります。晋作の行動履歴には知らないものも多く、とんでもない(無茶苦茶な)人だと思いました。まさに「動けば雷電の如く、発すれば風雨の如し。」革命の方法論については、これまでの歴史観が少し変わった気がします。対象を大きく捉えることは大事だし、情勢や機運に対するセンスはヒーローに必要な資質ですね。議論より行動が大事なフェーズって、こういうことを言うんだなと思わされました。徳川幕府という統治体制において、徳川家は大名のうちの盟主に過ぎないのもなるほどと思いました。そして、権威(畏怖)という一種の空気によって成立していたわけですが、空気が崩れたときにいかに脆いかということは、今の世でも変わらないなと思ったりします。あと、対外戦争での敗北という現状認識を180度変えなければならない強烈な体験と気づきを早い段階で得られたことは薩長にとって大きかったとつくづく思いました。読んでいて、長州征伐で敗北した幕府軍(幕府歩兵隊を除く)は、数年前の長州そのもののように映りました。前にも書きましたが、山口の県民性に書いてある内容は、司馬遼太郎の本がもとになってるんだと思う箇所が多いです。最後に、私はそうせい候が好みです。私の性格にも合っているはず。

世に棲む日日(一)

司馬遼太郎
『世に棲む日日(一)』
文藝春秋
2003年3月10日(新装版)
20241007 東京出張で完読。吉田松陰と高杉晋作です。長州藩というのは徳川300年の封建制度にあって奇妙なところがあるなと改めて思いました。能力ある若者をいい意味で甘やかす(好きにさせる)ところは「ならぬものはならぬ」というよりは臨機応変さがあってよい雰囲気だと感じました。藩主敬親は、そうせい候と揶揄されますが、人の重用には長けていたと思います。また、保守と革新が、過度な粛清をせずに交互に政権を奪い合っていく様は、二大政党制っぽくて、政治の能動性というか封建打破の原動力たり得た一つの理由な気がしました。まあ粛清でなくても、内乱や戦争等で次々と亡くなっていくわけですが…。封建的な武士にありがちな形式的な忠孝や意地を張って連携しないような頑なな態度より、実を取ったり、実際に動くことが大事としたりする思考は、単純に無頓着な大村益次郎は別としても、原動力の一つだろうと思います。こないだの帰省で松陰記念館に行ったので、ふむふむといったところです。穏やかな人柄を持つことによって気迫を養うことができるという考えは、よいと思いましたし、「狂」の精神に通じる気がしました。女を寄せつけない節操の硬さは、益次郎と同じでした(松陰の話)。続きはいつ読めるかな

花神(下)

司馬遼太郎
『花神(下)』
新潮社
1976年8月30日
20240923 帰省往復で完読。昨日、大村神社と鋳銭司郷土館にも行って、高揚しています。下巻は、西郷との対比が興味深かったです。同時に薩長の違いについても頷けました。「薩摩の大提灯、長州の小提灯」と言われるのもわかります。明治2年に襲われた場所は、佐久間象山の遭難と同じ場所のようですが、それが5年しか違わないということに驚きました。第2次長州征伐(1866年)から戊辰終結(1869年)の3年間における歴史的存在感は一等級です。これだけ短期間に事が進んだのが、彼の合理的な指揮によるものであるからこそ、花神ですね。数学的にものを考えるというのは、非政治的な現実論者として、技術屋だなと感じさせられます。その後敗戦に至るまで彼の設計によるものが運用され続けることも頷けます。45歳で亡くなったということで、今まさにその年齢です。いつも思うことですが、あの頃の志士たちの享年を聞くと、自分は何も成し得ていないと思わざるを得ません。萩にも足を伸ばし、遊覧船の船頭さんが、歴史は1/3はそんなことあったかもしれない、1/3は本当、1/3は嘘と言っていましたが、ざっくりそんなところでしょう。あと、山口の魅力はやはり何もないところなのかなと思いました。革命期の思想家(松蔭)、戦略家(晋作)、技術者(蔵六)という視点から、解説で薦められていたので、次は『世に棲む日日』を読もうかな

花神(中)

司馬遼太郎
『花神(中)』
新潮社
1976年8月30日
20240829 東京往復で完読。おもしろいです。300年以上続いた幕藩体制を変えた市民革命として見ると、幕末の長州は、封建社会で抑えられていた才能が解放され暴れ回るという、身分制度では到底抑えられない人間のダイナミクスみたいなものが見て取れるようで大変興味深かったです(その熱量たるや)。情念としては強烈なほど長州人意識が強いので、読んでいると久々に小学校の頃の歴史好き少年に戻った気がします。中巻では、朝敵になったときの長州を幕府にも朝廷にも属さない独立公国とする高杉の理屈がおもしろかったのと、よくもまあ消滅せずに耐え抜いたもんだと思いました。そこにはやはり超合理主義の村田蔵六が必要だったのだと思います。とはいえ、人間社会は合理的なだけでは物事は進まず、形式がモノを言う場面も多いです。その辺りの不器用さや、周辺のサポートがまた物語を面白くしています。徳川300年の世は、超合理的に不穏分子を徹底的に排除するシステムを構築し、その人生経験から人間関係にも長けた家康という偉人が築いたものだと思いました。いつの時代も新しい事を成すというのは、実のないしきたりを壊すことに他ならないかもしれません。ただその実をとる冷静さは、ときに冷酷なもので、四境戦争での大島口のような采配はなかなかできないなと思います。下巻は読む時間あるかな(はて)

花神(上)

司馬遼太郎
『花神(上)』
新潮社
1976年8月30日
20240814 ようやく手にとった1冊。地元の外れ、長沢池という池の辺りに大村神社があります。この小説の主人公である、村田蔵六こと大村益次郎を祭神とする神社です。地元では吉田松陰や高杉晋作といった志士に人気があります。維新後に長州閥を形成するとともに新しい国家を築いた偉人たちも有名です。そういった歴史的人物と同列にあるはずなのに、ひっそり佇むさまがまた彼のよう。靖国神社の参道に堂々たる銅像がありますが、不思議と地味で目立ちません。司馬遼太郎の小説は、『梟の城』『竜馬がゆく』『燃えよ剣』『坂の上の雲』『翔ぶが如く』といった映画やドラマになったものは観て知っているのですが、読むのは初めてでした。ちなみに『花神』も大河ドラマを観ようとしたことはあるのですが、地味で単調なため、すぐにやめてしいました。さて、前置きが長くなりましたが、思っていたとおり、私にはとても魅力的な人物に映りました。身の処し方や、ナショナリストなところが特に引き込まれました。冷徹で合理的なのに、自分の故郷というものにどうしようもない情念を持っているところに共感したというか、身の処し方については粋を感じるとともに感銘を受けました。地元のことを愛しているけど、好きになれないという下手に絡み合った自分の感情が表現されているようでした。続きはいつ読むのやら。

「モディ化」するインド

湊一樹
『「モディ化」するインド -大国幻想が生む出した権威主義』
中央公論新社
2024年5月10日
0629 Xでちらっと見たのをきっかけに購入。8年前にインドに行ったときから、インド熱が冷めません。人々の生きるために生きている感がとても魅力的な国でした。人口が中国を超え世界一、来年あたりに日本のGDPはインドに抜かれるらしい、スナク、ピチャイ、ナデラといったインドにルーツを持った首相やCEOを見ていると、インドの国際的地位は怒涛の勢いで上昇しているという印象を持っていますし、どこで見聞きしたのかモディ首相はリーダーシップがあるらしいといった印象が強いです。そうした特に根拠もない印象論の危険性を訴えているのが本書です。大変興味深く読み進めました。あまり具体的なことには触れませんが、ヒンドゥー至上主義を強力に推し進めているモディ首相の政治手法が、権威主義が民主主義の仮面をかぶっているという表現で解説されています。自国の憲法を蔑ろにして、保障された権利を踏み躙るような行為は厳に慎むべきでしょう。インドがいかにカオスであろうと、そういった民主主義の土台を守れるか、試されている時期と言えそうです。

会計と倫理

渡邉泉
『会計と倫理 -信頼と公平を携えた800年の軌跡-』
同文舘
2023年7月30日
20240519 リアル書籍(電子ではないの意)が続きます。渡邉先生の本です。意思決定有用性批判と小さいからの道徳教育が大事、というお話でした。会計倫理を考えるにあって、個人的には実際の現場で事実とは異なる会計記録をつける場面をどう防ぐかという観点を重視したいと考えています。どんな素晴らしいガバナンス体制をとっていても、最終的には個人の倫理観に依存してしまうと。そして、これをどう育んでいくかというと、教育なんだろうと思います。とは言え、本書にある通り、乳幼児期に受けた家庭での道徳教育が〜となると、正しいけど現実から乖離しているように感じます。では、規制に頼るしかないのかというと、それでは何も変わらないです。難しいタイトルです。終章の表紙にある「事実なるものこそ存在しないのであり、存在するのは解釈だけなのだ」 byニーチェには考えさせられます。社会科学で実証研究が増えるなか、歴史や理論は大事だろうなと思う次第です。要は両方大事なんだが。

財務3表一体理解法「管理会計」編

國貞克則
『財務3表一体理解法「管理会計」編』
朝日新聞出版
2024年2月28日
20240424 國貞先生のシリーズは、検索したら16年前に読んでいました。管理会計編というタイトルに惹かれて読んでみましたが、大変おもしろかったです。管理会計って、なぜか人を寄せ付けない雰囲気があるじゃないですか。重要かつおもしろいはずなのに。原価、予算、C/Fの知識はあるけど、イメージを伴った理解までは、、という方に勧めたいです。会計数値は数字なのですが、その数字の背景をどのくらい具体的にイメージできるかが重要です。想像できないものは単なる数字で終わってしまいます。このあたりをわかりやすく説明されていると思いました。会計はかじっているけど、専門にしていない学部生に読んでもらいたい。複式簿記のシンプルさ、洗練度、使途においてこれに勝るツールはないということも理解してほしいです。あと、すごくドラッカー推しでした。人は他人からの管理が強いほど、やる気を失っていく生き物っていうのは、頷きしかない。

世界は経営でできている

岩尾俊平
『世界は経営でできている』
講談社
2024年1月20日
20240312 岩尾先生の新刊です。本当に一般向けなので、非常に読みやすかったです。平成生まれでいらっしゃいますが、大御所の大先生が定年後に徒然なるままに書いたエッセイを書籍にしたような雰囲気が漂っています。本書で伝えられている内容は、最後の一文の通りです。「人間とは、価値創造によって共同体全体の幸せを実現する、「経営人」なのである。」世の中の役に立ってなんぼ、というのを忘れて、おかしなことをするから、おかしなことになる。「歴史は登場人物の名前以外は似たような出来事の繰り返し」なんですよね。いつも本来の目的に立ち返って、社会生活を営んでいきたいものです。「部分に気を取られて全体を見失う、短期利益を重視して長期利益を逸する、手段にとらわれて目的を忘れる」私たちの生活場面のいたるところに経営はあります。何かうまくいかないことがあれば、それはうまく経営できていないのだと思います。ぜひ読んでみてください。

たかが会計

福井義高
『たかが会計 資本コスト、コーポレートガバナンスの新常識』
中央経済社
2021年6月15日
20240218 圧倒的積読のなかの1冊。『企業会計』の「ひょっとすると役に立つかもしれない会計のはなし」を書籍化したものです。印象論で語られていることを丁寧に根拠を示して否定する、皮肉たっぷりの福井節がとてもおもしろいのですが、いかんせん読み進めるのに集中力がいるので進まない。文章はコンパクトなのですが。誤魔化さずに真実を見つめるために、研究って大事だなって思わされます。個人的には、悪い動機より無知の重要性のところなんかが知的好奇心を揺さぶられました。世間ではモラルがひどく騒がれていますが、角度というか観点が間違っているように思います。何にせよ目的に沿った適切なインセンティブが、自分の描くよりよい世界に繋がると今は考えているし、内的動機が世界を変えていく原動力だと思っています。根源的無知を認識することは大事。最後の実測予測F/Sもよかったです。会計は自由だ!

仕事人生のリセットボタン

為末大、中原淳
『仕事人生のリセットボタン 転機のレッスン』
筑摩書房
2017年7月28日
20240101 飛行機で読みました。25歳以降は、リセットボタンを押しながら過ごしているので、興味を持ってポチりました。為末さんは一つ上の同世代で、陸上で100,200mから400m、そして400mHに競技種目を変えていったという共通点があります。読んでみて考え方にも共通点が多いと感じました。そこそこの幸せで安定ならOKとは思わないタイプで、とにかく飽きてしまう。過去を売る(自分の成功をもとに何かを提供する)のは、時間がもったいないと思うし、せっかくやるなら、自分の経験になること、新しいことをやりたいと思ってしまいます。そして、1番の強みは、失うものがないということ(そう思っているところ)。ゼロから出発するのが、ワクワクするんですよね。ただ、人への指導となると、自由と裁量を与えることが最良だと信じているところがあって、そこの合う合わないがかなり難しいなと悩んでるし、徒弟制が向いてないとつくづく思います。贅沢な話、自分で問題設定して、自分で回答するといった、自分で動いていく人間をサポートするのが向いていると思いました。自分の話ばかりになってしまいましたが、中原先生のピボットターンの例えはいいなと思いました。

日本企業はなぜ「強み」を捨てるのか

岩尾俊平
『日本企業はなぜ「強み」を捨てるのか 増補改訂版『日本”式”経営の逆襲』』
光文社
2023年10月30日
20231221 『日本”式”経営の逆襲』を読んでいなかったので、読みました。新書で読みやすかったです。タイトルは、すでに持っている経営技術(強み)を捨てて、弱みを取り入れる笑えない現状を表現されています。個人的には最後の方のイノベーション自体のマネジメントのシミュレーションがおもしろかったです。こういうのやってみたいと思いました。「予言の自己成就」「信念の自己強化」に嵌ると加速度的に価値創出が高まるのは何となくわかります。日本が文脈に深く依存しているのは、良くも悪くも感があります。なんかよくわからないけど、たぶんそういう空気っていう感じで物事が進んでいる。これを抽象化・論理モデル化していくのが私の職業なのでしょう。あと、支配された空気に弱い。そこに事の真偽は関係ないという。。いい意味で、信念が実質をもたらし、その実質がまた信念を強化するという好循環を作りたいです。

コーポレート・ガバナンス

花崎正晴
『コーポレート・ガバナンス』
岩波書店
2014年11月20日
20231126 コーポレート・ガバナンスというと、企業統治に関する規制のイメージがあったのですが、企業経営の非効率を排除して、企業価値を高めるメカニズムということでしっかり学習できたように思います。アメリカ、日本、東アジアのガバナンスの特徴について、データや研究成果をもとに説明されている本ですが、本書で筆者が発信したかったのは、90年代以降の日本における不良債権問題は、ガバナンスが効いていなかったメインバンクシステムによって長期化したという研究結果だと思いました。株主との共謀、実態の隠蔽といった銀行の状態をエントレンチメントと表現されていました。組織には、効果的な外部からの規律付けが必要なことがわかります。ガバナンスの問題に限らず、世の中は確実によくなっているのですが、なかなか皆が幸せに暮らせる仕組みとしてうまく設計ができないものです。むずかしい

物語思考

けんすう(古川健介)
『物語思考 「やりたいこと」が見つからなくて悩む人のキャリア設計術』
幻冬者
2023年5月8日
20230926 久々に自己啓発っぽい本です。著者の言っている通り、精神論ではなく「やり方(ハウツー)」を提供している本だと思いました。なりふり構わず頑張れを、きちんと体系化してやることを具体化したものと言えます。そういう具体的な部分は、失敗していいから自分のやりたいようにやりたい気持ちが強い私にとっては刺さりませんでしたが、それ大事!だと思ったのは「自分の設定した夢や目標を変えるのに躊躇がない」「アイデアを温めてはいけない」「学習初期に無駄なルートを大量に試すのが成功に近い」といったところでした。いろいろ書きたいことは山ほどあるのですが、書き始めると止まらなそうなのでやめておきます。誰もわからない将来に対してキャリアプランを立てるより、キャラを作って、その場その場で演じていくのがよいと思います。あと、人生はエイヤっていうのが大事。

目的への抵抗

國分功一郎
『目的への抵抗 シリーズ哲学講話』
新潮新書
2023年4月17日(電子版)
20230907 やっぱ哲学ですよ。哲学しなきゃ。本心では全くそうは思わないけど、こうするのが最も得な結果に繋がるからやってる、っていう合理的選択ばかりでやるせない世界をどうにかしたいと思う今日この頃。難しい話は置いておいて、おもしろかったと思います。遊びは真剣に行われるもので、真剣に行われるから楽しく、充実感がある。ゆとりとしての遊びは、活動がうまく行われるために不可欠である。ということがこの本で得られた最大の内容だと思います。あまりにも合理的で冷めた世の中には、情熱が必要ですよ。合目的的な活動から逃れること=不真面目ということではないというのも大事な観点です。人間の自由は、必要を越え出たり、目的からはみ出たりするのです。贅沢と不可分。人間らしく生きる喜びと楽しみのある生活をしたいですね。

千の顔をもつ英雄〔新訳版〕上

ジョーゼフ・キャンベル、斎藤静代 訳
『千の顔をもつ英雄〔新訳版〕上』
早川書房
2015年12月25日
20230831 Xこと元Twitterで目にして、面白そうだと思い、出張前にポチって移動で読みました。昔から思っていたことで、世界のどの地域でも同じような神話があって、漫画やドラマも大まかにはどれも同じで、結局物語って、だいたい登場人物と内容は似通っているというやつ、が主題の本です。著者は高名な神話学者とのこと。ジョージ・ルーカスもこの本でまとめられていることにインスピレーションを受けて、スターウォーズを作ったとか。いろいろな話が出てくるのですが、インドの神話とか、ブッダとか、知っているものが出てくるところは読みやすかったです。あと、オーストラリアの先住民のイニシエーションの話がグロくてちょっと…って感じでした。あと、DBではないのですが「亀仙人」が出てきた。最終的には、神は全部(喜びも怒りも過去も未来も陽も陰も男も女も何もかも)を含んで神ということでした。二元的、相反する組み合わせは、一つ重要な原理ですね。紙の本は久々でしたが、やっぱいいですね。

「戦前」の正体

辻田真佐憲
『「戦前」の正体 愛国と神話の日本近現代史』
講談社
2023年6月1日(電子版)
20230719 流行りの本をば。神話は好きです。宗教もそうですが、嘘だと知りつつ、気持ちのよい言葉に、人間の感性は揺さぶられ高揚するものです。人間は自分のことを特別だと思いたいものなのです。戦時の当局(プロパガンダ目的)、企業(儲け目的)、消費者(熱狂目的)の3者のウィンウィンウィンで成立した構図は、そうだよなと思いました。本書では、「原点回帰という罠」「特別な国という罠」「祖先より代々という罠」「世界最古という罠」「ネタがベタになるという罠」という5つの観点で、戦前を考察しています。互いに矛盾している「宿命論」と「努力論」が循環するというのはおもしろいと思いました。情報過多のこの時代、情報を体系的に整理して真偽をしっかり判断する力が大事だと常々思います。おわりににある、この能力を最も培えるのが読書や執筆というのは、その通りだと思います。スマホをスクロールしていても、身につくとは思えない。
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